2013/06/16

こんなことになっている

 とりあえず、借金するのをやめた。

 ネクトゥーさんも、ミーさんも、シェフ・リカーも、「やめなさい」と言った。
「キミはがんばり屋さんだから、いくら大変でもとことんやるだろうが、無理はよくないし、家族を犠牲にしちゃいけない」
と言うのが、全員一致の意見だった。尊敬している3人の人生の先輩たちに、そこまで言われたら、「そうか、そうだよなあ」と、まあ、考える。

 考えてみると、「反対されるだろうな〜」と想像できた人には、話しをしていなかったことに気付く。「けっきょく、こんなことになった」と事後報告したら、「それでよかった」とみんなが言った。

 これまで「勝手にやれば!いつも通り」と言って、無視され続けてきたJPにも、やっぱり意見を聴くことにした。
「今でさえ子どもたちを放ったらかしなのに、新しい事業を始めたら、もう子どもたちとはご飯も食べれなくなるじゃないか」
そうか、そうだったのか、そんなことを思っていたのか。
 子どもたちを放ったらかしにしてたの?わたしが??
 ちょっと心外。

「そんなに働きたいなら、うちで雇ってやる。せっかくもらった翻訳料は、貯金しておきなさい。」
と、いきなりミーさんに言われ、明日から仕事に来いと言うので出て行ったら、「もう正社員として登録したから」と言う。え?ちょっと待ってくださいよ。まだ心の準備が。。。わたしはミーさんちの正社員になった。

 ミーさんとは、ミーさんの日本でのお店のオープンのために、2007年から2009年の間に何度いっしょに日本に行かせていただいた。このごろは日本のお店も軌道に乗り、通訳も必要ないので、いっしょに日本に行くことはなくなったけれども、それでもずっとお付き合いしている。

 パティシエのミーさんに「調理師の学校に行きたい」と言った時に「主婦が片手間にできることじゃないんだから。甘い」と言って叱られた。けれども翌年「いま、調理師の学校に行っている」と言ったら、びっくりしつつも応援してくれた。パティスリーの宿題を手伝ってもらったこともある。
 学校で義務づけられている職場研修があったので、ミーさんのパティスリーのラボで、二週間研修させてもらった。そのあと「調理」なのでパティスリーに居座ることができなくなったときには、アルビでいちばんのレストランに「友達だから。まじめな日本人だから」と言って紹介していただいた。それがリカーさんのレストランだ。研修と臨時雇用を含め、3年前から出入りしている。7月にもお手伝いに行くことになっていたけれども、ミーさんちの正社員になって毎日働かなければならなくなり、リカーさんのレストランで働くことはできなくなった。ちょっと残念。

 ミーさんちでは、クリスマスを二回ぶん、売り子さんとして雇っていただいた。レストランでの仕事に比べたら、売り子さんのお仕事はらくちんだった。毎晩残り物のケーキをもらって帰る、おいしいお仕事であった。

こうやって、もうかれこれ10年近いおつきあいで、お店に出入りしているので、働いている人をみんな知っている。みんな大好き。みんなに好かれている。。。と思う。

 ミーさんはこの春アルビの一等地に、新しいコンセプトのブティックを開いた。その中に、お昼だけ軽食を出す喫茶スペースがあって、わたしはそこで「調理」を担当している。今はまだスタートしたばかりなので、ミーさんがコックコートを着て、わたしの横にぴったりくっついて、毎日いっしょに働いている。信じられない光景だ。わたし以外の誰も、思いもしなかった光景だ。

 わたしが調理師の学校に行きたいとミーさんに話して、叱られたあの日からずっと、ミーさんをぎゃふんと言わせたいと思っていた。そして今、ミーさんは、ぎゃふんと言っている。わたしがおいしいキッシュを作ると、Ma petite Minori, ma fleure du Japon, elle est la reine de Quicheと唄う。「わたしのかわいいみのり、二本のお花、みのりはキッシュの女王♬」ミーさんのレシピは、素晴らしいのだから、わたしのキッシュはおいしいのは当たり前。

 憧れていたガストロノミーの道は遠のいた。友達と開こうと思っていた日本料理店は、もうちょっと先になった。今はまだまだ修行と預金の時期らしい。ゾエは来年中学校に上がるし、ノエミは来年高校卒業資格試験を受ける。子どもたちにはお母さんが必要なので、最低来年までは、お母さんがかなり必要みたいなので。。。ミーさんのところでじっとしながら様子を見てみようと思う。元気だったら、冒険はいつでもできるんだから。
 肉体的に46歳からの転職と、生活リズムの変化はきついので、いつまで続くかはわからない。みんな「そのうち諦める」と思っているだろう。わたしは「なるようにしかならない」としか思っていない。

 ミーさんのおかげでまだたくさん残っている翻訳料の中から、中古の自動車を買った。キャッシュで買った。これで、わたしは遅刻することなく職場に行くことができるし、どんなに遠いところでも剣道の講習会に出て行ける。ミーさんのレストランは、テイクアウトのサンドイッチやサラダがあるので、わたしは毎朝3時50分に起きて、5時から仕事をしている。その代わり、13時には仕事を終えて、学校から戻って来るゾエを、おやつと笑顔で迎えることができるし、時にはアルビの寮に入っているノエミと、アルビで待ち合わせして、ミーさんちの喫茶店でいっしょにケーキをたべたり、買い物をしたりもする。とりあえず、愚痴を言わずにがんばるのが目標。
「愚痴を言わずにがんばるお母さん。。。」を覚えていてもらえたらいい。いつか投げ出したり諦めたりした時に、いちおう、わかってくれるだろう。

 さて、明日のために、早く寝よう。
汗水流し、借金せずに買いました。中古車ですが、うれしいです。


 





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