2009/11/17

嵐の前の静けさ〜?

 JPが水曜日に手術をするので、火曜日から入院することになった。
1時間半ぐらい掛かるトゥールーズまでの道のりを、助手席に座って耐えることができないので、ベッドが装備されている救急タクシーを予約した。そういうのは車いすなどと同じで、保険が下りるのでじゃんじゃん利用しなければ。
 前の週に麻酔医師との約束があって、わたしが運転する自動車の助手席に座ってもらったが、わたしが運転するとJPはいらつく。いらついてる人間が横でイライラしていると、運転する方はドキドキして、ヘマをやるので、さらにいらつかせる。
 「そんなに我慢できないなら自分で運転したら?へへ〜。運転できないんだから、治るまで我慢してわたしの車に乗るしかないんだよ〜。へろへろべ〜」
 JPの神経を逆撫でするのは得意。
 「絶対に自分で運転したい。コイツに看病されるぐらいだったら、病気にはなるもんじゃない」
と、しみじみ思わせて差し上げなければ「いっだましいがいらん」というもの。

 13時に救急タクシーを予約しているので、12時ぴったりには食べたいらしく、11時半頃にはJPが廊下をうろうろし始める。
「早くしてくれ」とか「遅れたらどうするんだ」とか言えない人だ。
そんなことを言ったら「自分でやれ」と言われることがわかっているので、台所内のことには口を出さない主義らしい。(主義、ですって?)手を出さない人間には、口出しする資格はないのだ〜。

 12時5分。わたしがみそ汁用のネギを刻んでいると、窓の外で
   ぶん ! がっちゃん!
というものすごい音が聞こえた。二重ガラスなのに、はっきり聞こえた。最初は「あ、事故った」と思ったのだが、窓の外を見ると、ぶつけられたのは路上駐車してたうちの車らしきこと判明。あ〜、ついに、車も買い替えてもらえるか!?と一瞬にんまり。(にんまり、ですって?)

 汚れたエプロンと草履姿で、路上に飛び出る。
隣の家の人が、電話を片手に、走り去ろうとする車を指さす。
走ってるけど、停まろうかどうしようか迷っているようなスピード。追いついた。
 「あの、すみませんが(ほらまた謝る〜)、あなたがぶつかった車、わたしのなんですけど」
助手席の窓から運転手に向かって言った。すると、イブ・サン・ローランの《イブ・サン・ローラン》って文字をかたどったブローチをしている、イブ・サン・ローランの派手なオレンジ色の口紅はとうてい似合わない奥様が
 「そんなこと知ってるざます。だからこうして停止したんでザンショ」
と、聞きもしないのにムッシュの代わりにお答えくださった。お二人とも、公道をすっ飛ばすにはかなりイッテルご高齢だ。

 一応ムッシュだけ降りて来た。
が、「すみません」は言わない。当然だ。フランス人だもの。
ぶつかったのはわたしのせいだとおっしゃる。停まってる車にぶつかったら、ぶつけた方が悪いに決まってるじゃないの。しかも、路上駐車が認められている場所で、正しく停めてあった。引っ越してから6年ほど経つが、ぶつけられたのははじめて。
ーーなど言ってるところへ、JP登場。ほぼ一ヶ月世間に顔を出していなかったので、ご近所のオバサマたちが「あら、あなた居たの?」って顔で見ている。仕事に行ってるはずの12時5分に、一ヶ月分の無精髭とアフロヘアー。足を引きずって痛そうにしているJP。表情も硬く、この人こわそーってだれでも言いそう。ムッシュがわたしに向かって、がんがん言ってるものだから、JPが出て来て「すみません(謝るなって、日本人みたいに)もういちど言ってください。」って、まるで日本語初級のテキストで教えるフレーズ。
これは、JPがキレる直前の合図。

 「はいはい。おじさん、わたしは怒ってるんじゃありませんよ。書類にサインをしてもらったら保険屋に持って行って、車も修理してもらえますので、それだけやれば訴えたりしませんから。はい、我が家へお入りください」
と引っ張ったら、おじさんが
「わたしたちは昼食事に招待されていて、時間がないんだ」
と、言ってしまった。これはまずい。言ってしまったね、おじさん。
わたしが真っ青になっているところへ、アフロヘアーのJPが毛を逆立てて、おじさんに迫る。
 「わたしだって時間がないんだ。1時には救急車が来るんですよ。腰が痛くって痛くって、泣きたいんですよ。もう何週間も寝てて、やっと明日手術をするので、今日の一時に救急車が来て、運ばれるんですよ。遅刻したらどうするんですか。」
見た目いかにもそんな感じ。。。の病人タレているJPに、そんなことを嘆かれたらおじさんは黙るしかないのである。おじさんが免許証を取りに行っている間、わたしはJPに「落ち着いて、落ち着いて」と言い背中をさすってあげた。

 JPとおじさんは、わたしがみそ汁を作りながら魚を焼いている台所で、保険屋に出す書類を書いた。JPは椅子に腰掛けて座っているのが痛いらしくて、手がブルッてる。おじさんは、JPがエキサイトしてブルッてるのかと恐れているらしく、JPの手元をちらちら見ながら黙々と書類の穴を埋めている。

 入院前に。。。けっこう不吉な事故であった。
とりあえず救急タクシーがJPを病院に連れて行ってくれたので、わたしはアルビでの仕事に向かい、仕事が終わってからその足で病院に向かった。

 JPの部屋の前に来たとき、ドアの前で絶句した。。。。
部屋の番号が 409 だったもので。
 「落ち着いて。落ち着いて。ここはフランスなんだから。。。」
と自分に言い聞かせて、部屋に入ると、JPはすでに入院患者用のパジャマを着ていて、とってもかわいかった。
長く暗いトンネルの中で苦しみ続けたJPだったが、出口の明かりが見え始めたんだろう。にこやかな患者となっていた。

 背中が開いててお尻半分見えかくれ。危うくスーパー・ミニ・サイズのパジャマ。。。アフロと無精髭がなんとも不釣り合いでおかしすぎるので、写真を撮ろうと思ってカメラを構えたが、409号室で死ぬほど苦しんでる人のことを思うと、たしかにお気の毒であった。
(でも撮ったけどさ。これはブログ・ネタになると思った!へへ)

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