2009/09/25

ベベ


 日本に帰らなければならなくなった友人に、預かっていた猫。ベベ

 春に《仕方なく》預かった猫だった。生まれてはじめて猫と暮らした。ベベは、どうやらわたしたちのことが好きになってくれたようだった。特にノエミのことが大好きで、ゾエのことはうっとうしく、JPに嫌がらせをすることが趣味だった。


 JPが出張で留守だった夜に、食事の時ベベはJPの席に座って、わたしたちが食事している様子を眺めていた。向かいの席に座っている私からは、猫の頭しか見えない。まるでテーブルの上に、猫の頭の丸焼きが載ってるみたい。薄目を開けて、テーブルの上を監視している、ベベ。わたしが、
「ミヌどうしたの?お腹すいたの?」というと、子ども達が一斉にわたしの方を見て、ゲラゲラ笑った。

「ミヌ、毛深いね。耳からも毛がはみ出してるよ」
「ミヌ、散髪屋に行きな。ひげが伸びてるよ」
「ミヌ、無口だねえ。なにか言ったら?」
「ミヌ、静かだねえ。足音も聞こえない」
「ミヌ、ゴロゴロ言いながらよってくるから、かわいいねえ」
「ミヌ、あんたゆうべいびきをかいてたよ」
「ミヌ、お魚好きでしょ」
「ミヌ、よく食べるね」
「あ、ミヌ、おならした〜。くっさ〜い」
「ミヌ〜、笑いなさいったら〜」
子ども達が、ゲラゲラ笑いながら、猫に話しかける。

 猫は、我が家の《ミヌ》同様、無感動、無関心、無表情のむっとした顔で、半分居眠りしながら、JPの席にじっと座っていた。
《ミヌ》というのは《にゃんこ》のことで、じつは、わたしはJPのことを家庭では「ミヌ」と呼んでいる。(JPっていうのは、書く時だけ)子ども達は、どうしてわたしがJPのことを《ミヌ》と呼ぶのか、理由を考えたことはなかったと思う。フランス人の男性は、奥さんのことを《ラパン(ウサギ)》とか、《ビッシュ(子鹿)》あるいは《プッサン(ひよこ)》と呼んだりするから、わたしも理由なく《ミヌ》と呼んでいると思っていたことだろう。

「まるで、パパ!」
「パパ、そのもの!」

 我が家に笑いを振りまいてくれたベベだったが、飼い主がわざわざ日本から迎えに来た。
ベベとの別れを一番心配していたノエミだったが、「猫は犬に比べて記憶力が低いから、自分のことなんかすぐに忘れてしまったと思う」と、かなりクール。
ゾエはさっそく次の猫について検討中だが、ゾエは猫の世話などやらないので、検討してもらっても仕方ない。

 猫はもう飼わないと思う。JPが猫アレルギーと花粉症なので、この前の春みたいな春がやってくることを思うと気の毒。しかも、動物というのは、人間の心理をよく感じ取るらしく、「近づかないで欲しい」と思っている人のところには、来たがるのだ。ベベは、JPの椅子に座り、JPの足下をうろうろし、JPの服に身体をこすりつけていた。いまだに、ときどき、ベベの毛を発見する。もうしばらくは続くだろう。ボボもちょっと寂しげだ。

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