2009/07/20

おくりびと

  土曜日の夜に、アルビに住んでいる日本人のマリさんから電話があり、アルビの映画館で日本の映画をやっているよと教えてくれた。
「しぶがき隊のモッくんが出ているよ」
というのだが、しぶがき隊が3人だったのか4人だったのか思い出せない。
《しぶがき》が《渋柿》ではないことは容易に想像できるし、《しぶ》と《がき》がそれぞれ片仮名と平仮名のグループに別れていたんじゃないかとも思うのだけれど、もしかしたら《渋ガキ》だったような気もするし。。。《錦織クン》っていう人がいたような気もするんだけど、あの人って《なに隊》だったっけ?

 実際のモッくんは想像していた人じゃなかった。しかもおじさんになっていたので、ものすごくショックだった。
ひさしぶりに画面で見る俳優が「歳取ったなあ〜」と感じる時、それはまさに、自分に跳ね返って来てちょっと寂しくなる。
吉行和子がおばあちゃん役やってるとか、むかし公私ともにツッパリだった(ハズの)杉本哲太が、役所職員の上に子煩悩なパパになってるのもかなりショック。
 主人公の父は、最後に死に顔でしか出ず、でも、大物役者に違いあるまいと思って調べたら、峰岸徹ではないか!?むかし、アイドル歌手が失恋して飛び降り自殺をした。あの!失恋の相手こそ峰岸徹ではなかったか。彼は死に顔でたった一度だけ登場したのだが、この映画を作りながら、死んだアイドル歌手のことをおもいだしただろうか。このキャスティングには意味があったんだろうか?
「おくりびとも、いつか、おくられびとになる」

 ところで。。。日曜日のお昼ごはんのときに、アルビまで映画を観に行こうよとJPを誘ったら、「ええ〜アルビまでえ〜」と生返事。あきらめてミシンを出し、袴の裾あげをしていたら、4時5分前になっていきなり、「映画行くよ」と誘いに来る。映画は午後4時半から。マリさんが「泣くよ」と言っていたから、いちおうハンカチだけ持って、化粧をする時間もなく急いで靴を履いた。

 お天気のよい午後の4時半に、アメリカ映画じゃない外国映画で、しかも字幕の映画を見に来るような人は。。。お年寄りだけだった。玄関ホールもシーンとしてる。閉まってるのかと思った。お客はほとんどが60歳以上ぐらいの人たち30人弱で、席はぜんぜん埋まってなかった。平均年齢を下げてるらしき人と言えば、わたしたちと、こんなに空いてるのに、壁際の前から三列目に静かにうずくまってる、ちょっと「おたくさん?」と呼びたくなるようなお兄さんのみ。

 映画が始まって、モッくんが遺体を洗いはじめたところで、いきなり後ろの席で
「助けて〜。バタッ」
という、まるで映画のワンシーンのようなセリフとともに、明らかに人が倒れた物音がした。
暗がりで殺人でもあったか!?

 「隣に座ってた人が倒れた!」
という老女の声に、人々が一斉に立ち上がる。非常口付近の男性が、映画館の人を呼びに行った。すぐに映画が中断され、館内が明るくなった。
 「誰か救急車呼んだの?」
とヒステリックに叫んでいる人約1名。60代はイってる、館内じゃけっこう若メのおばさん。
 「映画館の人が呼んだんじゃないの?」とJPはいつものようにかなり冷静。
 「私の夫は、心臓マッサージの講習を受けましたっ!」と、有閑マダムが勇敢にも、定年退職後約10年ぐらいらしき、ご主人様の背中を押す。ご本人は自信なさそう。だいじょうぶかな〜。
 「携帯、持ってる人?持ってる人?」
さっきの若メのおばさんが叫ぶ。
年寄り集団というのは、携帯なんか持ってない。若いけど礼儀正しいわたしたちは、映画館に携帯など持って来てないし。(実はいつも持ち歩くのを忘れてる)どう考えたって、映画館の人が呼んでるでしょう。
 若メのおばさんは、やはり若作りしているだけあって、いまはやりの携帯を持っている。が、しかし、肝心な時に、使い方がわからず、うろうろしている。

 いっぽう現場では、さきほど自信なさそうにしていたご主人様が「この人、意識があるみたいですよ」と言って立ち上がり、まるで自分が心臓マッサージで生き返らせたかのように叫んだ。有閑マダムは隣の人に向かって「やっぱり講習を受けた甲斐がありましたでしょ?」と涙ぐんでいる。「あなた、すばらしいわっ」などと、つぶやいたりなんかしちゃったりして。

 若メのおばさんはみんなが注目をよせている携帯電話にむかい「人が倒れましたッ。映画館です」と言っている。何度も同じフレーズを繰り返す。そしてみんなのほうにふりむいて「どこ?って訊いてるわ。馬鹿じゃないの?消防団のくせに」とか言う。そりゃあ、そうでしょう。アルビには4つぐらい映画館があるんですから。後ろの席の人が電話をひったくり、映画館の名前と、倒れている人の状態を説明するとすぐに、救急隊員たちがどやどややって来た。サイレンが聴こえるまでは、館内は緊張した空気に包まれていた。横溝正史の密室殺人事件の需要参考人になった気分だった。結局、倒れた人は、立ち上がった瞬間に一瞬目がくらんで、暗がりで段差を踏み外した。。。というようなことらしく、救急隊員の人も、大丈夫と言って連れて行ったので、ほっとした。ちょうどお葬式のシーンの所から再開したので、大丈夫じゃないような事件だったら、この映画を見続けるのは非常に気まずかったと思う。たしかに、お天気のよい日曜日に、重装備で働く隊員を見ながら、のんきにお年寄りたちと映画観てる自分がちょっと。。。気まずかった。

 観た映画は『おくりびと』
http://www.youtube.com/watch?v=E_z0_MLvwvw

 ≪旅のお手伝い≫というキャッチフレーズを見て、観光業界かと思い面接を受けに行ったモっくんだったが、実は≪安らかな旅立ちのお手伝い≫だった。
 友達には「もっとまともな仕事しろよ」と言われるし、奥さんには「けがらわしい」と泣かれるし、納棺師のお仕事というのも大変なんだなあ。

 わたしは父の葬式にも出なかったような娘だ。映画の舞台となっている東北と、九州の最南端では、風習も違うと思うけれども、まさか、この映画が、こんな内容だとは知らなかったので、大変。。。。。なんというか、勉強になった。

 映画の中で、火葬場のおじさんが、遺体に「またどっかで会おうな」と言っていた。わたしも、最後に父と別れる時に、まだ生きている父に、「いってまいります」と言えず、「また、どこかで会おうね」と言った。それまで輪廻転生とか、生まれ変わりとか、考えたこともなかったけれども、とっさに「また、きっとどこかで会える」と思ったのだ。

 送る、送られることについて、深く考える映画だった。でも、まだ立ち直れそうもない人には、見せられないかなと思う。わたしは、立ち直ったんだろうか。大丈夫だった。
 ずっとずっと泣いていたけれども。

 わたしの記憶の《シブがき隊》ぜんぜんファンじゃなかったけど、やっぱりなつかしい〜。

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