2009/03/03

アルビ人 対 ナゴヤ人

名古屋城

サント・セシル大聖堂



 たまに《あー》さんから、変な鹿児島弁のメールをもらう。
「おいどんは こきちで ごわす。よかにせ じゃっど」
の、ような、ドコゾのものとも言えないような鹿児島弁だ。
《あー》さんのような北海道生まれ東京育ちのもんは、大河ドラマ辺りで鹿児島弁になじんでいるつもりなんだろう。

 シゴトで名古屋に行くことになり、名古屋の人とのふれあいも多くなった。人生四十年にして、本物の愛知県民と知り合いになったことは、かつて一度もなかったので、名古屋の人もいったいどんな人間なのか、とっても楽しみだった。

 名古屋の人は、名古屋人ではなく《ナゴヤ人》だ。
《アルビはフランスの中心》と思ってるミーさんは、「ナゴヤは世界の中心だっ!」と言ってるナゴヤ人の卸し屋さんとも、とっても気が合っている。
 
 ミーさんとわたしが名古屋に着いてまずびっくりしたのは、

       道路が広い。

 そりゃ、フランスは土地が余っているけど、車量が少ないので、高速道路だって片側二車線だ。
広々としたアヴェニューを見たいと思ったら、パリのシャンゼリゼ辺りに行くしかないだろうが、ミーさんもわたしも大都会は苦手なので、パリに行くのも必要最低限以下におさえていて、だからこんな道路見ることもない。
片側5車線なんて。。。信じられないッ。

 なにがおいしいのかなあ〜、と思っていたら、ミーさんが「日本食は東京で済ませたから、ナゴヤではフレンチだっ」と日本料理店をキャンセルさせたので、ウワサの味噌煮込みうどんは、いつになっても食べることができなかった。そのかわり、松坂牛の網焼きは何回かごちそうになった。フランス人はKOBEのお肉は辞書にも載ってるほど有名なので知っているが、松坂牛を語れるフランス人は、やはり、アルビじゃミーさんぐらいだろう。ミーさんは、税関の壁も突破し、松坂牛のかたまりを、スーツケースに入れて持ち帰ったほど、MATSUZAKAがお気に入りだ。

 ウワサのトンカツは、ミーさんをフランスに送り帰してから、名古屋近辺に散らばる女友達たちと食べに行った。
もともとトンカツは大好物でよく食べるので、「トンカツおいしいよ」と言われても、「へ〜そうなの」と思っていたが、名古屋のトンカツは、ソースがミソだ。「ソースがミソ」というのは、もちろん「ソースにポイントがある」っていう意味だけじゃなくて、「ソースがお味噌」なのだ。こってりごてごての味噌味が、わたしにはぴったり。味噌煮込みうどんを食べた時、わたし、名古屋だったら生きていける、と思った。




 東海テレビのスタイルプラスという番組でやってた「名古屋の不思議」という特集を見ていたら、「名古屋の人はコーヒーにあんこを入れます」と言っていたので、ナゴヤ人ならやるかも。。。と思う、今日この頃のわたしは、けっこうナゴヤ人通になりつつあるのだろうか。

 テレビの撮影隊はみんな名古屋から来る人たちだから、本場の名古屋弁が聞けるぞと楽しみにしていたら、ナゴヤ人のくせに、やっぱり期待通りの名古屋弁で語らない。「ぼくは富山だから」という人も約一名いたが、富山にだって富山語ぐらいあるんじゃないの?どうやら、これは、鹿児島人が大河ドラマみたいな鹿児島弁を使わなくなったのと同じ現象なのだろう。そのかわり、「東京でも大阪でもない」というプライドからか、ナゴヤ人らしい、のどかで、アクセントが《ミソ》の標準語もどきを話す。
 東京もんでさえ、ちゃんとした標準語を話せる人間は少ないので、ナゴヤ人が「わたしたちって標準語だがね」と言っても、ビビらない。でも確かに、宇宙語みたいにわからない関西弁は何度聞いても緊張ものだが、標準語もどきを話すわたしには、アクセントがミソの標準語もどきを使いこなすナゴヤ人の方が、親しみがわきやすい。
(同級生のほとんどは、わたしがふだん、東京もんのような標準語や、フランス語を話しているとは、どうも想像できないだろう)

 名古屋ではコーヒーにピーナッツがついているというウワサだったが、わたしたちは庶民の入る珈琲屋には入れなかったので、実際のところがわからない。けれども、どんなに高級なカフェ〜に行っても、コーヒーにチョコレートがついて来ないのは誠に残念だった。「カフェ〜」なんてフランスかぶれのする名前が付いていても、ウエイターのことを「ギャルソン」と呼んでいても、コーヒーにチョコレートがつかないなんて、「もどき」としか言えない。

 ナゴヤ人は、ただでもらえるならなんにでも集まって来るそうなので、コーヒーにチョコレート、トンカツにチョコレート、服を買ったらチョコレート、CDにもチョコレート、そして車を買ったらチョコレート。。。そういうサービスでチョコレートをもっと庶民に浸透させられる場所ではないかと思う。《スタイルプラス》で中尾彬が、ミーさんのチョコレートに味噌を入れたら?と言っていて、一人「これは。。。」と思ったわたし。
 今いきなり書きながら思いついたけど、今度ミーさんに、この案を提出しよう。。。

 それと名古屋では、地元の人にしかわからない地方番組がいっぱいあってびっくりした。わたしは夜遅くにホテルに戻ると、テレビをつける。やっぱり、どんなにザッピングしても期待通りの名古屋弁を聞くことはできないが、名古屋の地元情報がわかるので、「よし次回は、よし次回は」と夢見ながら深夜の地方番組を見ている。

 名古屋でのサイン会は、大盛況だった。スタイルプラスの特集の影響は大きかったと思うが、サイン会の列に飛び入りする人の多くは、並んだ時点ではミーさんのことなんかゼンッゼン知らないって人が多かったのじゃないかと思う。
 「あれ〜ガイジンきてるよ。誰だろ?」
「へえ〜フランスチョコレート界の巨匠だって、すっご〜〜おい」
と、うろうろしている人たちのほうを振り向いて、わたしが
「すっごい有名人ですよ」
とひとこというだけで、
「キャ〜買いに行こ行こ」と言って並んでくれる。
ナゴヤ人は売る方も買う方も上手?
(いつからナゴヤ人になったの、わたし?)
プライドのピントも外れているナゴヤ人は、その言葉に現れているように

 オモシロイ
 ヘン
 でも、カワイイ

のである。

 セントレア空港に向かう電車の中で、お年寄り女性二人が目の前に座った。
「みゃあ みゃあ」と期待通りの名古屋弁で、言ってることがぜんぜんわからなかった。念願叶って本物の名古屋弁を耳にできたわたしは、空港までのひとときを、幸せな気持ちに浸れた。

 東京の同窓会で《ンど》の五段活用をしてる同郷の友だちがいて、みんなで《ンど》は東京の言葉では表現できないと、全員一致の意見だった。
 フランス語では表現できない日本語もいっぱいあるところ、アルビのアクセントと鹿児島弁に共通点を見いだしながら、平和に暮らしているわたしなのだ。じつは、はじめてフランス人のフランス語を聴いた時に、「鹿児島弁にそっくり」と思って、うっとりしたのだ。

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