2008/12/15

Russian Fantasia No.3 Leo Portnoff



 夜中の2時に、外があまりにもしんとしているので、郵便受けの穴から外を見たら、雪が降りはじめていた。
土曜日と日曜日は、フランス南東地方と中央高地で大雪の予報が出ていて、日曜日の朝にはさっそく被害の報道でにぎわっていた。
そういう時でも、カーモーの辺りは雪は降らない。

 カーモーに来てから4年経ったが、たしか2年目に大雪が降って、70センチぐらい積もった。一昨年は10センチぐらい積もっただろうか。どちらも1月に入ってからだった。

 来週の月曜日にはJPの両親の家に行く。両親の家は地中海に面した町にあって、そちらも雪は降らない。そこに行くまでにマザメという地方で山を越えなければならないが、そのへんはクリスマスに雪が降っていることがある。

 カーモーから北に30分ぐらいの《バラックヴィル》という町がある。ロデツの剣道クラブに行く途中、そこを通過するのだが、他は天気がよくてもバラックヴィルだけはいつも天気が悪い。町に入るといきなり霧が深くなるし、雪も降る。雨も多いし、風も強い。バラックヴィルに住んでいると聞くと、「よくまあ、そんな所に住んでるね」というような町だ。

 ノエミのヴァイオリンの先生はバラックヴィルに住んでいる。そして、片道1時間半ぐらい掛かるガヤックの町と、1時間ぐらい掛かるアルビと、30分以上掛かるカーモーで、子どもたちにヴァイオリンを教えている。

 火曜日に音楽学校の発表会があった。ピアノ・フルート・ギター・ドラム・コーラスも発表された。去年よりも子供の数が増えたので、去年よりも大きなホールでの演奏会となった。
 
 ノエミの課題曲は、わたしが日本に帰る前に楽譜を注文しておかなかったばかりに、届くのが遅くなり、コンサート前の一週間しか練習できなかった。それでも先生は、その《ロシアのファンタジー Russian fantasia Leo Portnoff》をどうしても演奏させたいと言った。
 4分の4拍子のアンダンテと、4分の2拍子のアレグレットと、8分の6拍子のところにはピッチカートも出て来る。唄ったり泣いたりしているようなテンポが続く。1オクターブを行ったり来たりする重々しい最後で、高いラから低いラに落ちて締めくくるという、カッコいい曲だ。でもとっても難しくて、1週間の間喧嘩ばかりしていた。わたしが偉そうに指導して、ノエミが偉そうに反発するから、いつも喧嘩になる。でも、ノエミは腹を立てるとすごい威力を発揮するので、「ほらまた間違った」などというとムキになって次は意地でも間違わない。この子はなかなか叱りがいがあるのだ。(いじわるな母)

 水曜日に先生から電話があり、「昨日の発表会は、ノエミ、よくがんばりましたね」とおっしゃる。
私もノエミ自身も「ちっともよくなかった」と思っていたので、「そうですか?先生はあれで満足だったんですか?」と言った。
「うちの子、もっと練習したら、もっと良くできましたよね?」
「そうですね。時間足りなかったですね。その割には、わたしはよかったと思います。もっと練習したらもっと上手にできますよ。ノエミは」
ほら、そういってもらいたい訳ですよ。ノエミには。
ノエミも先生の言葉を横で聞いてる。そして「今度はもっと練習します」などと言ってる。よしよし。
 「ところであの発表会は、最低でしたよね」
というはなしになる。子供たちのほとんどは、いかにも練習不足だった。面白くなさそうに、無感動な表情で、仕方なさそうに、いやいや演奏している。音楽なのに、音は出ないし楽しそうじゃない。発表会なのに、見せるものがあまりない。感動が湧かない。
 中学校に行って思うことにちょっと似ている。子どもたち、なんだか、生気がない。笑わない。面白くなさそうにしている。先生たちも、教えがいがないだろうなあ、と思う。その点、にほんごクラブのみんなは生き生きしているから、よかった。やっぱり、義務でやってるのと、遊部では違うんだろう。

 「ところで、明日わたしのコンサートがあるんですよ」
ノエミの先生のコンサートは、できる限り行くことにしている。とっても面白い先生だし、先生がどんなにすごいかを見せてあげたいのだ。尊敬してる先生とそうでない相手では、習う方も気合いが違って来る。それに、こんな田舎でコンサートなんて滅多にないので、たまに本物を聴かせてあげることは大事だと思うから。去年の冬はモネスティエの教会で、ジャズとクラシックのコンサートがあった。とってもよかった。意外な組み合わせで、楽しかった。
 今回のは、先生がいまハマっている、ロシアのバラライカとバイオリンとチェロのコンサートだという。ノエミもいまロシアの曲をやっているので、ぜひ来てくださいと誘ってくださった。

 ガヤックの教会に集まったのは、50人ぐらいだろうか?ロシアのバラライカとギター、歌とピアノもロシア人の女性、そしてバイオリンとチェロで構成される4人のフランス人グループ。そこに、ノエミの先生も座っていた。先生がたまに冗談を言う。そして、たまにソロが入れ替わって、先生もソロをやる。

 わたしがいちばん好きだったのは、スピルバーグの《シンドラーのリスト》という映画で流れたジョンウィリアムスの曲だ。この映画もそれはそれは感動的だったが、この曲を聴くと、赤いマントの女の子の姿が目に浮かんで泣きたくなる。赤いマントの少女が出て来るシーンに流れるOifn pripitchikという曲は、イーディッシュ語のユダヤの古い音楽。
http://jp.youtube.com/watch?v=JkS3cZntDTY&feature=related

イツアック・パールマンの《シンドラーのリスト》テーマ曲演奏ビデオがあったので、ご紹介。この人、ちょっとノエミの先生に似ている。
http://www.juif.org/video/2559,la-liste-de-schindler-musique-de-itzhak-perlman.php

 今晩クリスマス休暇まえ最後のレッスンのために、先生は、雪の降るバラックヴィルから出て来てくださるのだ。ノエミ、昨日もがんばって練習していた。

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