2008/03/03

2月8日 出発

 夏の旅立ちに較べると、かなり余裕。スーツケース作りも、出発前日でちょちょいと片付けた。実はずうっと忙しくしていたので、旅行の準備がなかなかできなかったのだ。出発前から不眠症で、体力の限界を感じ始めていた。
 地方では買えないミーさんのチョコレートをお土産にするため、ミーさんに注文しておいた12個ほどのチョコレートの箱を、出発前日に取りに行ったら、「全部差し上げます。ご家族に食べていただいて」と言ってもらえた。
 ミーさんからは夏に「みのりさんにはお世話になったので、一生分のチョコレートをプレゼント」と言われたのだが、わたしに一生分のチョコレートを貢いでいたら、ミーさんはきっと破産してしまうんじゃあないか?
小さな機内持ち込みOKのスーツケースに、チョコレートやドラジェや、ハーブなどのフランスのお土産を詰め込んだ。持ち込まない大きなスーツケースにはワインも2本入っている。

 《液体》にはあれほど気をつけたはずだったのに、不覚にも空港でチューブ入りクリーミーファンデーションが引っかかってしまった。搭乗を待っていてくれたJPを呼びつけて、ファンデーションを持って帰ってもらうことにした。
 「仕事は、化粧なしで?」
JPが気の毒そうにしている。どうせ、してもしなくても同じだからいいの。

 出発ゲートのところに来ると、ミーさんが不安そうにあたりをきょろきょろ見渡しながら待っていた。遠くからわたしを見つけると、並んでいた列を外れて近づいてきた。
「見捨てられたかと思った。ひとりで日本に行くぐらいなら、家に帰ろうかと考えてたところ」
ミーさん、いきなり弱気。
「大丈夫です。わたしがついてます。ご安心を。」

 ミーさんはビジネスクラスなので優雅な旅が待っている。いつも通りならば、出されるお酒をぐいぐい飲んで、睡眠薬も飲んで、日本までぐっすり眠るという作戦だろう。ドイツで一回乗り換える。2人で力を合わせればどうにかなるさ。
 わたしは、ニースから合流して来る《とし》との再会がちょっと気がかり。彼女は12年ぶりに日本に帰る。

 フランクフルトの入国審査のところには、たくさんの日本人観光客が列を作っていた。
 日本人観光客と海外で会うとけっこう恥ずかしい。冬であれば、このごろの日本人は、変なマスクをしていることが多い。3Dの恐ろしげな、右翼団体を連想させるようなマスクが怖い。変な病気が流行ってるのかと思ってしまう。
 髪の毛がヨーロッパ人みたいな色なのに、まつげが黒くて気持ち悪い。
 鼻をかまずにいつまでもズルズル言わせている。コーヒーもすすって飲むし、スパゲティーも音を立てて食べる。
歩き方が、変。
 いつも自信なさそうに、きょろきょろしていて、集団でぞろぞろと歩く。
 やたらと写真を撮る。写メっていうんだそうだ。みんな携帯電話にじゃらじゃらとおもりをつけている。みんな競い合って最新のすごいケータイを持っている。猫もしゃくしもケータイを持っている。わたしのように10年もののケータイなんか持ってると「女を捨ててる」と言われる。
 写真を撮る時に変なピースをする。
 わたしが名付けた《変なピース》とは、中指と人差し指をぐぐっと大きく広げて作った見事な逆三角を、外側に45度ぐらいに傾けた上に、ついでに頭まで傾ける。頭を傾けると、水平を保とうとして自動調節を始める目玉が、ギョロ目になって、写りが悪くなることには気づいていないらしい。カメラを向けると反射的に《変なピース》を作るのは、たいてい女性だ。
 若い女性の多くが、まつげにカールを掛けている。まるで日本人らしくないデカイ目をしていて怖い。目玉が真っ黒な火星人みたいな人もいて怪しい。
 着ている服は、色や長さが意味不明で、「そうかこれが今流行のスタイルか」とそれはそれで許せる。だけども、足元は昔も今も変わらない、永遠のO脚と豪快な内股の場合が多く、草履のかかとをすり減らし、耳障りな音を立て、足を引きずるように歩く大和撫子の姿は、百年前から変わっていないと、みた。
 若い今どきの男性はというと、ただでさえ脚が短いのに、韓国あたりで作られたとおぼしき、アメリカ製ジーンズをパンツ見えるまでずり下げてる。わざとやってるファッションらしいが。。。なんともまあ《ずんだれてる》。(《ずんだれてる》は鹿児島弁。これを標準語で表現するのはむっずかしーので雰囲気でわかって欲しい)今どきのファッションを追いかけてるばかりに、脚の長さが30センチぐらいにしか見えなくなっている。気の毒だねえ。カウボーイ風の尖った赤い革靴に《サンダル・ジャポネ》とまで言われるビーチサンダルを履いた時と同じ歩き方では、《国際人》がいい笑い者なのだ。あ〜あ

 どこから見ても日本人とは思えないような、長い足で颯爽と歩いて来る、アジア系らしきオンナが、向こうからきらびやかにやってきた。わたしの《とし》だった。トゥーロンのそばに住んでいる友人で、フランクフルトで合流することになっていた。

 ミーさんに《とし》を紹介すると、「きれいな人だねえ」といって目を輝かせている。
これだから、おじさんは。。。
「なんならみのりさん、ビジネスクラスに座っていいよ。わたしがご友人と旅をするから」
などと、言ってくれないものかとちょっぴり期待していたが、
「さすがにビジネスクラスは乗り心地がいいよ」
と自慢するだけ自慢して、ミーさんはさっさと行ってしまった。寝る気だね。

 《とし》に会うのは久しぶりなのでずっとお喋りしたかったのだが、飛行機のなかはけっこう音がうるさく、なんだか落ち着かない。これから11時間半、夜の中を時間をさかのぼりながら飛んでいく。
「みのちゃん、着いたら仕事なんだから寝なさい」といわれ、このわたしとしたことが本も読まず、映画も見ずに寝る努力をした。夏に乗ったJALと違い、シートに座ると足がブラブラするので、一晩中不愉快だった。
 朝ご飯が済んだら《とし》にファンデーションを借りて、いちおう化粧して、仕事用の服に着替えて、日本着陸を待つ。
目の下にくま。疲れてきっているので、化粧なんかまるで無駄な努力。


 トゥールーズを出てから約13時間が経過して、日本の日付は9日になっていた。飛行機を降りた時点で、《とし》にお別れを言った。わたしは、優先で降りたビジネスクラスのミーさんを追いかけて、ひたすら走らねばならない。「待っててくれてもいいのに〜」動く歩道も使わずに、廊下を走ったので、あっという間にミーさんに追いつけた。
 「あ、みのりさん。もう日本人に戻ってる。」
 「ええ〜仕事が始まるんですよお。ミーさんだけ先に出て行って、わたしの方が待たせたら、やっぱりダメじゃないですか」
 「みのりさんは、ほら、すぐに、日本人に戻るんだから。。。」

ミーさんにとっての、腹立つ日本人女性。
 いつも慌てていて、エレガントさに欠ける
 せっかくドアを開けてあげてるのに,遠慮ばかりする
 男性の後ろを歩く(後ろから観察されてるようで嫌なんだそうだ)


 お迎えはマラソンランナーの《おー》さんと、アルビで病気だった広報の《なー》さん。
お2人とも笑顔が素敵。お会いできて感激っ。
美食の国フランスに来て体調を崩し、おいしい物も食べられずに蒼白になっていた《なー》さんの顔色は、すっかりもとに戻っていた。戻ったどころかさらに黒くなっていたので、安心した。(彼はタイ人サーファーといってもうなづけるほど、黒い)
 そして世界の名古屋を代表する貿易大会社社長の《すー》さん(肩書きにちょっと色を付けてみた)
《すー》さんの、素敵ですごいトヨタの自動車にはすでになじんでいる。大会社社長のくせに、車の中で流れているのは、とってもロマンチックな少女スターの音楽だった。ぶぶぶ。

 車が名古屋市内に入る頃に、雪が降りはじめた。今年はフランスは全然寒くなく、出て来る時にも15度ぐらいだったので、いきなり雪が降り出すのを見て心配になった。気になるのは、12年ぶりの帰国で不安な《とし》をひとりで放ったらかしにしてしまったこと。バスで大阪に行くと言っていたが、こんな雪でバスは大丈夫だっただろうか?わたしの方は顔見知り数名による、高級車でのお出迎え付きで、知ってるホテルに連れて行ってもらえるのでらくちんだが、12年ぶりの日本でなにもかも新しく、知らない場所で《とし》はきっと苦労しているに違いない。

 
 フランスは午前1時頃。ミーさんはそろそろ眠くなって来るころだが、わたしにとっての午前1時と言えば、ふだんまだ起きてる時間なのでけっこう余裕。こんなところで普段からの不規則生活がお役に立つのだ。
《ミー》さんは、ビジネスクラスのシートでたっぷり眠れたそうだ。夏よりもはるかに余裕。
「エコノミーのシートは広いのか?眠れるのか?サービスはどうだ?」
えらくご心配いただいているようだ。
 もしわたしがミーさんに「狭くって汚くって、ぜんぜん眠れないしサービスは最低だった」と言えば、《すー》さんに頼んで「みのりさんもビジネスクラスにしてあげてください」と言ってくれそうな雰囲気だった。

 さて、ホテルに到着。雪がじゃんじゃん降っている。
明日には京都と大阪にも行くって言うのに、先が思いやられるなあ〜。

 ホテルの18階で、優雅にお琴を聞きながらお寿司を戴いているうちに、雪はどんどん積もり、お寿司屋から見える小さな石のお庭に、雪が積もる姿は絶景だった。そのかわり、名古屋城の金のシャチは見えなかった。ただただ静かに雪が降るのを見ながら、ミーさんと並んで静かにお寿司を食べた。日本ですねえ〜。

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