2008/03/17

2月14日 バレンタイン・デーのお別れ

 《ミー》さんとの、最後の朝食である。もう帰るだけなので、話し合うことはない。いちおう反省会みたいなことをやって、「あ〜時差ボケがどうにか楽になって来たばかりなのに。。。」とつぶやく《ミー》さん。《ミー》さんにはこの東京での三日間に、説教ばかりされていた。
 わたしが、日本男児たちに、ヘ〜〜コラして、言うことを「ハイハイ」と聞き、遣われてるだけ遣われてるんじゃないかと、心配している。わたしは日本にただで帰って来れるだけで嬉しいし、高級なホテルに泊まり、運転手さんもボーイさんもつきっきりで、星付きのレストランにも行き、《ミー》さんと歩いているとよくスイーツの試食もできるし、チョコレートのことも訊けるし、けっこう楽しいのだ。いちおう、日本に帰るからには、鹿児島まで往復し、おいしい物を食べ、お土産を買って帰れるぐらいの報酬があれば、言うことはあまりないと思っていた。
 でも、夏に帰国してから、また冬に戻って来るまでには、いろいろと準備もあった。日本やスイスから何度も電話が鳴ったし、百貨店の人がフランスに来たり、テレビ取材もあったり、この仕事関連の翻訳をやったり、アルビまで走ったりもして、《ミー》さんは、そういうアフターサービスみたいなことを、何でもかんでも簡単に引き受けちゃイケナイと言う。もっとプロ意識を持って、要求するべきこと、主張するべきことを適度に行い、その代わりもっと勉強しなきゃいけないと言う。でも接待の時にはちゃんと報酬もらったし。

 そんなに主張のない《ハイハイ・オンナ》に見えるんだろうか?わたし。

 コーヒーのお替わりがやって来て、「そろそろ行こうか」と言ったミーさんの視線が、わたしを突っ切って、後ろの窓の外の一点で止まっている。
 「見間違いじゃないよな?」
指差す方向を振り返ると、ロープに身体を縛り付けてるお兄さんが、ビルの15階ぐらいにぶら下がっている。
 「窓ふきですよ」
 「ウソだろう?信じられん。」
言ってる間に、お兄さんはヒュルル〜〜と、滑って、息をのんでるミーさんに見せつけるかのように、10階ぐらい下まで飛び降りて行った。。。。
 「行こうか。。。信じられん。。。ウソだろう。。。」
まだ言ってる。

 本日の運転手は《あー》さん。白い手袋も帽子もなし。でも、すごいカーナビがある。料金所で遮断機が勝手に開く、リモコンもついている。《ミー》さんを時間よりも早く空港に送り、夏ほどの感動はなく、「じゃあまたね」と言ってお別れした。《あー》さんを刺激しちゃ悪いので、お別れのキスもなし〜。

 さあ、お楽しみ。お昼は《あー》さんがきつねうどんを食べに連れて行ってくれる約束だったのだっ。奥さまと美人秘書と合流。銀座のうどん屋さんに入った。おひなさんが飾ってあった。お昼どきで人がいっぱい。みんなズルズルと激しい音を立てていた。《あー》さんに「うどんは音を立ててもいいんですよ。」と、まるでガイジンに対しての解説みたいなことを言われたけど、わたしは昔からうどんもラーメンも、あまり音を立てないほう。猫舌なので、熱いのをつるっと、景気よく食べることができず、ちびちび口にたぐり寄せなきゃならないのだ。ああみっともない。炊き込みごはんまで食べた。

 デザートは、近くの《スギノ・イデミ》さんのケーキ屋さんへ。ルレ・デセールの方で、もちろんケーキは午前中のうちに完売だった。午後のティールームにはいくつかケーキが残っているらしいので、私たちは種類の違うケーキを頼んでみた。夏に《ミー》さんと来たエンドーですと自己紹介をしたら、メール交換をしたことのある奥さまは覚えていてくださった。《ミー》さんちの宣伝ポスターをプレゼントして、いっしょにご挨拶できなかったことをお詫びした。

 さあ、《あー》さんがホテルに送ってくださるそうだ。
「品川のラフォーレ東京です」と言うと、「ええ〜そんないい所?」とびっくりされた。友人のやっさんが、会社絡みで安く取ってくれたのだ。夏に泊まったホテルのそばだったが、ホテル自体も働いている人も、東横インよりははるかにちゃんとしていた。

 着替えをする前に、武蔵境から会いに来てくださった恩師のお嬢《てー》様と、ホテルのサロンでお茶した。てー様は、食べてみて、と言って《エコールクリオロ》というお店の《ジャパニーズセット》というチョコレートを持って来てくださった。ゆず味とか抹茶味のチョコレートだった。そのほかにも、おせんべいやいろんなおいしい物を持って来てくださった。
 武蔵境の仏壇に手を合わせに行けなかったのは、とっても残念だったけれども、ここで時間が稼げたおかげで、わたしはゆっくりシャワーを浴びて、友人たちとの待ち合わせにも余裕を持って支度することができた。

 風邪ひきで《死にそー》なやっさんが、仕事帰りにホテルまで迎えに来てくれた。わたしの赤っぽい帽子を見て「おお、フランス帰りっ」と言いながら頭を撫でた。
「エンドーさんって、こんなに小さかったっけ?」
言うなよ、それは。

 私たちは待ち合わせの東京駅のそばのレストランに向かった。長い夜の始まり。。。 

     続く

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