2007/11/20

きらきら輝く星

 ミシュランというガイドブックがある。それはレストランの評価ガイドブックとでもいうようなもので、フランスでも買っている人はいっぱいいる。たぶん、旅行のときのガイドブックと同じようなもので、「ちょっとぜいたくして、おめかしして、レストランでも行こうかね、という時に役立つ、ホシ早見表付き」ということになっている。

 今年三ツ星、二ツ星(星が多いほど良いという評価)に昇格したレストランの発表を見たら、この前帰国した時に入ったお店の名前があった。
 銀座の資生堂が経営している、ブルーノ・メナー シェフの 《ロオジェ》というレストラン。9月のこの日記で「40席の室内に、45人のサービス係が居る」と書いたレストランだ。奇遇にもブルーノさんは、9月に日本まで同行したチョコレート屋・ミーさんの、古いお友だちだった。
 もう一カ所、ミーさんのお友だちのレストランで《ジョエル・ロビュション》という名前のレストランもあるのだが、こちらはちょっと堅苦しいからと言って行かなかった。その代わりにミーさんのおごりで、同じロビュションさんの経営する《アトリエ》という店に行った。六本木ヒルズの、お金持っていそうな、若くて美しい人がカウンターでおしゃれにワインを飲むお店だった。わたしたちは当日の朝、ミーさんがフランスのロビュションさんに電話して、ロビュションさんから日本に電話してもらって、きゅうきょ用意してもらったテーブルを5人で囲み、どんちゃん騒いだ。
《ジョエル・ロビュション》は3ツ星で、《アトリエ》は2ツ星だったらしい。

 それから、12貫で3万円もするお寿司《神の手》と呼ばれる次郎さんのお店は、《すきや橋 次郎》というお店だが、そこはわたしは外されて、ミーさんとアーさんだけイイ思いをしたところ。(わたしは自由時間がもらえてユッピーだった)
 次郎さんは、ふだんはお店の隅にちょこんと座っていて、握りたい時にすっと立ち上がって、さらっと握って去っていくようなお人とお聞きした。ミーさんが「素材が新鮮で、お米の握り具合が抜群で、素晴らしいお寿司だった」と言っていたので、間違いないだろう。でも、あの80歳を過ぎた職人さんの次郎さんも、星に関心あるとはちょっと思えないような。

 あとで聞いたところによると、ミーさんと過ごしたレストラン三昧の日々、4-5人で入ると、一カ所で15万円から20万円の支払いだったらしい。実は毎昼、毎晩、《そんな》店で食べさせていただいていた。
 まあ、そんなことを前もって聞いていたからと言って、遠慮するわたしじゃないけど、確かに「通訳の方は食べる暇なんかないでしょうから、みんなと同じように注文するのはちょっと勿体ないかも」などと言われてはいたのだが、ところがどっこい、わたしはきれいに食べていた。どこに行っても。無駄にしてはいけないのだ。もとはしっかり取った。ふふふ

 「有名なレストランだから、話のネタに行ってみたい」ってことは、まあ〜、ない。そんなお金ないしイ〜。でも、連れて行ってくれるっていうなら、どこにでも行く。なんでも食べる。試食は怖くない。
 わたしはアフリカでだって、今そこで殺したばかりの羊を、住民と同じ鍋で、手づかみで食べてた女デス。食べる人間はどこででも生き延びていける。中国人をみよ。中華料理店はどんな田舎にでもあるでしょう。あれぞ、中国人が世界中に根を広げるテクに違いない。

 ちょっと、話がそれた。

 連れて行ってもらえる。しかも、お代はそちら持ちということで、わたしはまあ、本当によく食べた。ただ食べるのではなく、行く先々で、よそとの違いを教えられ、素材の見分け方や、調理の方法を習った。どのワインがどの料理に合うか。いま口に含んだワインは、どんな形容詞で表現されなければならないのかを教えてもらった。

 メナーさんも、《アトリエ》のシェフも、雇われシェフだから、星争いにはほかからのプレッシャーの方が大きかったと思う。でも、白衣で現れ、長いこと我々のテーブルの横でおしゃべりをしていったメナーさんの、繊細さと優しさと、まじめさと食に対する情熱と、美的感覚とインスピレーションは料理に現れていて、彼の料理が、もっともっと多くの人に味わってもらえたら、どんなに素晴らしいだろうと思った。でも、もう一度一人で行こうと思っても、ちょおっと手がでないのが残念だ。星が3つになって、来年はもっと料理の値段が上がってしまうのだろうか。ミーさんをそそのかして、《お友だち》の顔でテーブルを取ってもらえたとしても、《割引》は許されないだろうなあ〜。
 
 ガイドブックを見て、「話の種」にやって来る日本人で溢れかえるであろう、40席の小さなレストランのことを思った。
9月に行った時、宝石と高価な衣服に身を包み、お肌にもヘアースタイルにもお金と時間を掛けた美しい女性が、優雅にワインを飲んでいた。わたしみたいに一日中走り回ったせいで、ヨレヨレになってる服を着て、疲れた顔には隈ができており、髪は乱れて化粧の落ちた、変なオンナはいなかった。
 ただし、わたしは食の専門家たちと《食べに》行ったので、マナーを知らない割にかなりリラックス。「使いたいフォークを使えばいいし、嫌いなら残してもいい、好きならばわたしの分もわけてあげよう、チーズのお代わりはいくらでもどうぞ。それを食べた感想は、どうだね?」
実に貴重なひとときを過ごせたと思っている。

 3ツ星だから、2ツ星だから、あそこに行けよと奨めたりはしない。けれども、わたし自身はいつか機会があったら、ぜひまたメナーさんのお料理を食べてみたいなあ。もう一人《アトリエ》のシェフは、名前を忘れたけれども、あの《フォアグラのリゾット》は長く忘れられない味だ。日本であんな素晴らしいフランス料理が食べられるなら、わざわざフランスまで《美食の旅》なんて言って来て、パリのオペラ座近辺の日本料理店に入るとか、マクドに寄るとか、シノワで我慢するとか。。。そういう必要もなくなるというもの。日本人にとっては《フランス高級料理》を知る大きなチャンスだと思う。
 ただし、《フランス庶民料理》とか《フランス田舎料理》《家庭料理》《斬新な研究中料理》などと、自分にとっての《良いレストラン》だったら、20万円も払わなくたって開拓できる。お皿の中に季節があって、自然の素材が生きていて、雰囲気と味が自分にぴったりで、好みについてのわがままを言わせてもらえて、楽しく笑ったりお喋りすることが許されていて、子どもがいても迷惑がられないレストラン。それがわたしにとってのよいレストラン基準かな?そんな所だったら、予算オーバーでも、たまにはいいかと後悔しないかも。見つけられなければ、自分ちでいいよね〜。

 とりあえず公の場で《評価》されたことに対して、メナーさんたちに心からおめでとうを。

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