2007/09/24

9月7日 最終日〜〜〜

 最後の日は、さすがのミーさんも文句を言わずに起きて来た。レストランの入り口で、日本語の新聞をどっさりもらっている。ミーさんのお店で働く日本人の女の子たちに持って帰るらしい。わたしにも、どこに行っても日本語の新聞と雑誌をもらってくれと言っていたので、部屋には束で溜まっている。

 旅の恥はかきすて。かなりプライドの高いミーさんも、借金までしてナアナアの仲になったマダム・エンドーには、プライドを捨てていると見える。帝国ホテル最上階レストランから、皇居の森や国会議事堂などの写真なんか撮っちゃって。

 「台風来なかったね。やっぱり、アンタのうそだったよ」
ええ〜そんなあ。ゆうべ、暴風雨だったじゃ〜ん。
 「わたしの部屋はびくともしなかった」
そうですとも、そうですとも。天下の帝国ホテルざます。風の音さえ聞こえなかった。わたしが叫んでも聞こえまい。

 「ちょっと、スーツケースに入らない荷物や持って帰りたくないものがあるんだけどさあ」
ミーさんは、エコノミークラスのわたしと違って、ビジネスクラスだから、お預かりの荷物量が40キロもある。うらやましい。だから、持って帰っていただきたいものが、山のようにあるのは、こっちのほう。
 ゆうべ、てんぷら屋でプレゼントされた刺身包丁はさっさとスーツケースにしまったらしいが、名古屋一宮の大吟醸は「アンタにやるよ」と言われてしまった。でも、わたしはスーツケースを成田空港あてに送ってしまったので、手荷物として持ち込む予定の小さなバッグに、「大吟醸」なんぞを入れたら、税関で取られてしまう。ど〜しよう。

 空港にはアーさんの車で出発した。アーさんの車もかっこいいカーナビ装備で、高速道路を通過するときにも、料金所で止まらずに突っ切れるシステムを備えていた。
 あれは怖かった。。。
 遮断機が降りてるのに、アーさんはいつもと変わらない真面目な顔をしてそこにまっしぐらに突っ込んでいった。寸でのところで遮断機がガバア〜と持ち上がるので、わたしとミーさんははじめ「ぎゃあー」と叫んでしまった。

 余談だけど、トイレの蓋が自動で開くのも、あれも恐ろしかった。しかも、男子と女子の違いを察知されてしまうとは、手強い奴め。下から青い手が出て来るんじゃないかと思って恐怖におののいた。ふわっと開いて来るふたを、思わず手で塞いでしまったので、壊れたかも。。。へへへ。。。

 ミーさんはタクシーの自動ドアに触れて、叱られた経験があるらしく、日本に着いたその日から、タクシーが止まるとホールドアップされたかのように両手を上に向けて、運転手さんに両手を見せながらフランス語で「触ってませ〜〜ん」と言っていた。降りてからも「閉めるの?勝手に閉まるよね?閉めなくていいんでしょ?」としつこく訊いていたが、実はわたしもよくわからなかったので、なにか言われるまで、手はホールドアップ状態にしておいた。

 さて、成田空港。
朝っぱらから出掛けて行くのは、ヨーロッパ辺りまで行く人に決まっている。若い人とかお金持っていそうな人が多い。韓国とか香港だったら、余裕の午後出発。そしてみなさん服が派手。ミーさんはドイツ経由で帰ることになっている。この日、国内線はまだダイヤが乱れ、陸も空も欠航になったり遅れたりした交通手段が多かったのに、ルフトハンザは定刻通りの出発予定だった。
「ほらね、台風はここにも来てないし。」
結局、ミーさんが寝ている間に行ってしまった台風のおかげで、わたしは最後まで「うそつき」だ。
ううう、今度来たときには地震を呼んでやるう〜〜〜。

 わたしとミーさんは機内持ち込み用にする、小さなスーツケースを買った。ミーさんは最後に手にしていた紙袋をがばっと詰め、わたしは空のまま持ち歩いた。わたしには本日の午後、「ショッピング〜」の予定があるので。。。うほほ。
 日本に着いて一番に飲んだのも、最後に飲んだのも、一番日本らしい飲み物だった。
それはアイスコーヒー。
フランス人はアメリカンコーヒーはあまり飲まない。どちらかというとエスプレッソで、とっても濃いコーヒー。
コーヒーにチョコレートを添えて飲むのだけど、日本ではどこに行ってもチョコレートは添えられなかった。
アイスコーヒーなる飲み物も、ミーさんにとっては新しい発見だったようだ 

 最後にお別れするときに、ミーさんに握手をしようと思ったら、
「マダム・エンドーは半分フランス人だから、フランス式ね」
と言って、肩をつかんで、両方のほっぺたに軽いキスをしてくれた。フランスではご近所で、朝夕、家族とも、同性の友だちとも、こんな挨拶が習慣なので、わたしたちにとってはショッキングなことは、なーにもない。
 が、しかし、まじめな日本人ビジネスマンのアーさんが、《停止》状態で硬直して、わたしたちを見つめていた。

フランスに帰ってきてからミーさんに再会したとき、
「帰りの日、空港でミーさんがフランス式挨拶をしたでしょう。あれはアーさんにはちょっとショーゲキだったみたいです。空港から都内に戻って来る自動車の中で、アーさんが盛んに『フランス人で日本にレストランなんかを開いてる連中は、みんな日本人の愛人がいるんですよねえ〜』とか、まあ、そんな話をしてましたよ。」
と言ったら、ミーさんはガハハと大笑いをして、
「アーさんはまじめだから、ビビらせてやろうと思ったんじゃあ〜。わははあ〜〜」
と、大爆笑だった。アーさんは笑わせるなあ。

 さて、空港から都内まで送ってくれたアーさん。お別れかなあ?と思っていたら、最後にお昼をご一緒してお別れしましょうと言う。なんでも好きなものをごちそうしてくれるというので、もうわたしは、アーさんジュテームと心の中で叫んでしまっていた。
「でも、あの、《すきやばし 次郎》の三万円の寿司なんて、言わないでね」
とまじめに言ってるアーさんが、かわいい。
 連れて行っていただいたのは、銀座のアーさんのオフィス近くのうどん屋さん。きつねうどんを注文した。

「ええ?エンドーさん。日本で最後の日なのに、そんな安上がりなものでいいんですか?」
「てんぷらうどんとか、肉うどんは、自分でも作れるけど、この厚揚げがねえ〜」
「本当にいいんですかあ〜」
「よすぎますう〜〜」

アーさんも、かなりリラックスしている。今日は時速8キロで歩かずともよいのだろうか?できればわたしは、さっさと食べて、ホテルでひと風呂浴びて、武蔵境に行きたいんですけどお。
「外国暮らしの長い女性って、ちょっと威張ってて、きつくて、なんか、つきあいきれないんですよねえ」
ががーん。いきなりそんなことを言うなんて、ショック。
「一緒に仕事してても、主張が多くてねえ。やりにくいったらありゃあしない。」
ズッキーン。
「でも、エンドーさんは、さっき鹿児島から出て来たって感じですよね」
ええ〜、それって、なにい?褒め言葉あ?

と、いうわけで、アーさんはニコニコ、品川のホテルまで送ってくださった。一緒にロブションさんのレストランに行った奥さまから、子どもたちへとお土産もいただいた。感謝感謝だ。
ああ、仕事が終わった。長かった。夢のようだ。ドロドロだ。本当に武蔵境くんだりまで行けるんだろうか。

ホテルのロビーに入ると、まず「お名前は?」と訊かれる。
「遠藤みのりです」
「そのような名前でのご予約はありません」
「ええと、、、じゃ予約してくれたフミナカ・ミチヨかな?」
「ありません」
「DANIEL MINORI?」
「いいえ。。。」
わたしはだれ?ここはどこ?
「ミノリ・ダニエル さま?で、しょーか?」
気が利かんなあ〜。やっぱ帝国ホテルとは違うなあ。。。
 マダム・エンドーにとっては、ビジネスホテルは一気に格下げ感が出た。うれしはずかしバック・トゥー・ザ・庶民だ。ロビー横にあるのは格式のあるラウンジではなく、自動販売機のあるパイプ椅子の待合所だった。ま、いっか。夢にまで見たカルピスでも飲もう。
 4時にならなければ部屋に入れないそうなので、あと1時間待たねばならない。あと1時間ショッピングに出歩けるはずだったけど、もうそんな力は残っていない。アーさんとオフィスのマーさんが「お土産なら浅草で」「合羽橋のお道具屋は面白いですよ」と親切に行き方も教えてくれたのになあ。武蔵境には5時半のお約束。遅れるなあ。

 最終日の午後は、非常に長かったので、この続きは明日書く。
日がどっちから昇るやら、もうさっぱりわからん。
早く、誰か、知ってる顔に会いたい。。。。

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