2006/08/02

フィリップ・H

 曇り空、今朝の気温は25度ぐらい。
コートダジュールのニースという所では、38度などと言っている。恐ろしい。

 そろそろ日本からみなさんがやって来るので、我が家の女三人揃って美容院へ行った。

 ゾエも、ノエミも、わたしも、いまは髪をとっても短く切っている。
そして、私は短く切りすぎて、モーガンに『へん』と言われた。
JPにも『ふむ』と唸られた。
ダーリンがシルビーみたいなロングヘアー好みだということを、すっかり忘れていた。。。
でもこの年でロングヘアーなんて、やっぱりちょっと『へん』じゃないだろうか。

 行きつけの美容院はうちから2分、近いというだけで行くことにした『フィリップ・H』というお店で、はげ頭で、ビーチサンダルの、マンガとアニメが大好きなフィリップ・Hという名前の青年がやっているお店だ。この前も『日本語習って日本にサロンを開きたい』とか言っていたぐらいの日本マニアなので、わたしたちが行くと喜んでくれる。

 わたしたち三人の髪は、《日本人》のイメージぶちこわしの猫っ毛で、ひょろっと薄い。日本人の太くしっかりした黒髪を、見たことのある美容師さんや、そういううわさをきいていて「一度この手にしてみたい」と考えていたような人には、いつもがっかりされてしまう。
「ご主人は、あんなに光沢のある髪なのに。。。」

 「うちの母と姉たちは、黒々とした強い髪をしている。」といっても誰も信じてくれない。
私の髪の毛は父ゆずり。剥げてはないけど、短く切ったら透けてるタイプ。
 父が寝込んでいた時に、もうずっと外に行けなくて、この人の一生のうちでこんなに長い時間、海風に当っていないのは、あとにも先にもこんな時ぐらいだろうなあと思ったら不憫だった。

 それで、「ほら錦江湾の風だよー」と言って、おでこのあたりに息を吹きかけてやったら、ずいぶん短く切った髪の毛がふわふわ揺れていて、わたしの髪の毛みたいだなあ、とうれしくなった。
 父も目を細くして、気持ちよさそうに《錦江湾の風》に吹かれていた。面白くて、何度も何度も、それをやってあげた。「東シナ海だよー」とか「台風13号だよー」などと言って、そばに行っては、おでこに風を当ててあげた。

 わたし、34歳の誕生日から、いきなり白髪が生え始めた。白髪の増える早さを悩んでいるとその心労のせいでもっと白髪が増えた、ような気がする。恐ろしいぐらい生えた。JPまでもが「苦労掛けてるねえ」と言った。

 母は、私が中学生や高校生の時に、黒くて長い髪に椿油を塗って、きつく三つ編みにした髪を、おだんごに揺っていた。時間を掛けてブラッシングする姿を見るのが好きだった。この頃は短く切ってパーマをあてている。私が21歳で実家を出るころまで、多分白髪なんかなかったと思う。あの頃は両親はどちらも老眼鏡さえ掛けていなかった。両親に白髪が生えて、老眼鏡を買った日を、私は知らない。この前わたしが白髪頭で日本に帰ったから、みんなきっとびっくりしたに違いない。
 同級生の中には、独身の子がまだたくさんいる。みんなきれいにしていて、スマートで、髪をヨーロッパ人みたいな色に染めて、まつげにまでカールを掛けていた。肌はどこまでも白く、きめ細やかだ。わたしは20歳ぐらい歳とっている。(なのになぜか「変わんないねー」と言われた。)

 《フィリップ・H》がわたしに「そろそろ染めたら?」と訊いた。
 いや、染めるつもりはまったくない。もうちょっと待って、銀髪に染めたいとは、密かに思っているけど。参考までにフィリップ・Hが私の頭をどんな色に染めたいのか、訊いてみる。

 「赤」よどみなく応える。

白髪頭で里帰りするほうが、よっぽどマトモかなあ。

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