2006/06/29

ディスカヴァリー・メニュー

 暑かったので、後回しにしていたが、じつは、仕事が入っていた。

 この一年ぐらい毎月定期でもらっている、メニューの翻訳だ。
春はイチゴやアスパラガスをテーマにしたメニューだったが、夏となって、冷たい料理が増えた。
食べてもいないのに、メニューを訳すのは大変だ。

 インターネットで食通やレストランのサイトを検索すると、フランス料理のほとんどがカタカナ表記だ。仕事でもらっているメニューにはなかったのだが、インターネットで検索中に《グルニュイ》という単語がでて来て、「なんだこれ?」と思ってフランス語を見たら《カエル》だった。

 カエルのモモの肉というのは、チキンみたいな感じで、「カエルだ!」と思わなければ、日本人でも食べられると思う。ぜんぜん臭くないし、クセがない。でも日本人は《カエル》ときいたらやっぱり食べたがらない。《カエル》ときいたら、脳裏に理科実験で腹を割いたカエルの、股を開いた様子が目に浮かぶのだろうか。

 六年生のカエルの実験の時には、朝念じて熱を出し、学校を休んだので、理科実験でカエルのお腹を切ったりはしなかった。カエル嫌いで有名な「ト」さんは、しっかり学校にでて来て、しっかり気絶しかけていたらしい。私は絶対にカエルのはらわたなんか見たくなかったので、念じていたら熱が出た。それぐらい嫌わなきゃカエル嫌いとは言えないのだ。

 《グルニュイ》は一回食べさせられたけど、それきり食べようとは思わない。一回味見したから嫌いと言える。《サーヴェル (たぶん羊の)脳みそ》も食べたことがある。《エスカルゴ》も食べたことがあるが、私はミナが好きだから、貝類には強い。「これは貝なんだ」と念じたらエスカルゴも食べられた。でも一回食べたからもう食べないと思う。

 コックさんのお得意料理、季節の珍味、レストランお勧めの料理を集めたメニューがあって、こういうのは昔だったら《料理長お勧めのメニュー》などとやっていた。でもインターネットでいろいろ調べたら《ムニュ・デクべールト》とか《ディスカヴァリー・メニュー》となっていて、腹が立って来た。
 《ムニュ・デクベールト》だったら、日本に住んでいる日本人の耳で聞いたフランス語をカタカナにしただけだ。こーんなふうには発音しないし、書き換えたとはいえフランス語のままなら、翻訳者の名が廃る。いちおう訳した風で、しかもこのほうが日本人には感覚としてとらえやすそう、と妥協して《ディスカヴァリー・メニュー》としておいた。ちょっと悲しい。誇りを傷つけられた気分だ。でも、いまの日本人はどんなものにも簡単にカタカナを使うし、時には、カタカナで現した外来語のほうが感覚的にわかりやすかったりもするので、柔軟にならなければいけないのだと思う。

 インターネットで見たら《ミトネ》という単語が料理用語としてよく使われているのだと理解できたが、誰もがそう表記しているわけではなかったので、私は私のかすかに残っているプライドとともに《レギューム・ミトネ》とせずに《とろ煮の野菜》とした。
《イチゴ》とか《サーモン》はカタカナにしたが、《桃》や《鴨》は漢字のほうが素敵じゃないかと思った。
 だいたい《カモ》と書いたら、まるで、デートに連れて行ってよと言われて、彼女を三ツ星に招待したのに、車で送ってじゃあまた明日と言われてドアの内側には入れてもらえず、あげくの果てに翌日には捨てられた男、みたいじゃないの?

 《ミトネ》は、来月以降どうするか、コメントが来てから考える。

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