2006/04/28

歳をとったけど若返る

 朝起きて、コーヒーの香りの立つ台所に入ると、JPがいきなり「お誕生日おめでとう」と言った。絶句する。約30秒、自分が何月何日生まれだったのか、考える。
 「今日は28日だよね。」
 「そう」
 「じゃ、29日は明日だよね」
 「そう」
 「じゃ、誕生日も明日だよ」
 「へ」

 自分の誕生日も覚えていない彼だから、こんなことはよくある。
 結婚記念日とか、母の日などは一ヶ月前から警告を発して、一週間を切ったら、毎日警報を鳴らさねばならない。

 32歳を過ぎてから、自分が何歳だったのか時々わからなくなる。
 34歳で白髪がニョキニョキ生えだしてからは、何歳だったのか考えないことにした。
 35歳の誕生日からは、誰かがそのことを言うまで、自分ではいっさい言わなくなった。

 はじめて教壇に立ったとき私は21歳で、42人の学生の80%は40代以上の中国と韓国からの、労働者だった。当時の日本語学校という所は、中国人で溢れていて、先生と生徒の顔が見分けがつかないので、「教師はきちんとしたスーツを身に着け、女性はきれいにお化粧をすること」などという決まりがあった。中国から単身で来て、昼間は肉体労働やサービス業で働き、夜は半分寝ぼけた顔で仕方なく授業に出てくる、疲れた中国人みたいな顔をしていてはいけなかった。
 でも、自分の子供ぐらいの、こぎれいに着飾った、世間知らずな小娘を、「先生」と呼ぶことは精神的に難しいんじゃあなかろうかと思って、学生たちとの歳の差に、私は敏感だった。
 なかなか敬語をうまく使えない学生の、本当の問題点は、前に立っている自分ではなかろうかと思った。

 だから、クラスでは20代後半ということにしてもらっていた。それでも40代以上の学生から比べたら、見た目で「小娘」だったに違いない。

 今は、学生のほとんどは中学生とか高校生で、社会人でも年下のことが多い。だから38歳ですと言ったら、世間をよく知った、もののわかった教師のようなフリができる。
 そして、今どきの漫画好きの学生たちが持って来る、今どきの日本の話題や、流行言葉や、流行歌手の名前がわからなくても、「世代が違うねえ」と言って笑ってごまかすことができる。

 男性はシワの数だけ魅力が増えるけれども、女性はシワが増えたら振り向いてももらえなくなるような気がして、ちょっとさびしい。
でも、眉間じゃなくて目尻に笑い皺のできるおばさんになりたいと思う。

 ラジオで、103歳の女性と結婚した33歳の男性のインタビューがあり、男性は幸せそうに「彼女のシワに刻まれた歴史に惹かれました」と言っていた。テレビじゃないので彼女の皺が一体どんなに魅力的な皺なのか、見ることはできなかったけれども、103歳だったら、かなりシワシワだろう。誉められるようなシワができて、うらやましいかぎりだ。

 シワを増やして、なおかつ魅力的に若返えることができたら素敵だ。

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